ここでは、最も関連する法律である、教育委員会の職務権限を定めた地方教育行政の組織及び運営に関する法律(地教行法)を見てみます。
地方教育行政の組織及び運営に関する法律 (教育委員会の職務権限)、(教育機関の設置)
(教育委員会の職務権限)
第二十一条 教育委員会は、当該地方公共団体が処理する教育に関する事務で、次に掲げるものを管理し、及び執行する。
一 教育委員会の所管に属する第三十条に規定する学校その他の教育機関(以下「学校その他の教育機関」という。)の設置、管理及び廃止に関すること。(教育機関の設置)
第三十条 地方公共団体は、法律で定めるところにより、学校、図書館、博物館、公民館その他の教育機関を設置するほか、条例で、教育に関する専門的、技術的事項の研究又は教育関係職員の研修、保健若しくは福利厚生に関する施設その他の必要な教育機関を設置することができる。
第二十一条では教育委員会の職務権限として、最初に「当該地方公共団体が処理する教育に関する事務で、次に掲げるものを管理し、及び執行する」とした後の一に「教育委員会の所管に属する第三十条に規定する学校その他の教育機関の設置、管理及び廃止に関すること」と規定しています。ここで規定されている教育委員会の職務権限は、あくまで教育に関する事務の管理・執行であり、その中に第三十条によって規定され地方公共団体によって設置された学校等の教育機関の設置、管理及び廃止に関する事務が含まれているという意味になります。教育委員会が学校等の教育機関を設置・廃止する権限と責任を持っているのなら、ここでわざわざ第三十条を持ち出す必要はなく、単に「教育委員会は学校その他の教育機関を設置あるいは廃止する」と書けばいいはずです。また、第三十条では「地方公共団体は・・・その他の教育機関を設置する」という表現になっている一方で、第二十一条では「その他の教育機関の設置、管理及び廃止に関すること」というように、設置することか廃止することとかではなく「設置、管理及び廃止に関すること」となっているのは、明らかに教育委員会は教育機関の設置者ではなく、設置や廃止の権限や責任を持っているわけではないことを意味していると解釈できます。従って、山下議員の解釈1は正しい解釈であると考えられます。
そうすると、学校の設置あるいは廃止を決定・執行する権限を持ち最終的な責任者となるのは誰になるのでしょうか。地方公共団体は、地方自治法により公の施設、また学校教育法により学校の設置の権限を持つとされていますから、当然のこととして地方公共団体の代表者即ち、市の場合は市長がそれらの権限を持ち最終的な責任を持つと考えるのは妥当です。
また、教育委員会は地方公共団体の長の所轄の下にある執行機関であり、教育長および教育委員会の委員は議会の同意を得てその地方公共団体の長によって任命されます。この点でも、長は教育委員会に対する責任があります。教育委員会はまた、政治的中立性を確保するために設置されている行政委員会でもあり、その役割の中での権限と責任を持っています。しかし以下に見るように、長と完全に独立しているわけではありません。 さらに、地方公共団体での教育行政の進め方において、長と教育委員会がどのような関係にあるかを見てみます。教育行政の組織構造を図解すると以下の図のようになります。
この図にある総合教育会議は長と教育委員会によって構成され、その目的は、長と教育委員会が対等な立場での協議・調整により十分な意思疎通を図ることで、地域の教育の課題やあるべき姿を共有し、より一層民意を反映した教育行政の推進を図ることです。つまり、総合教育会議は長が単に教育委員会の決定を受けるだけの場ではなく、住民の意見や大綱に基づく自分の意見を反映させる場でもあり、長は住民に選ばれたものとしての大きな役割と責任を担っています。 この総合教育会議は、地教行法では以下のように規定されています。
地方教育行政の組織及び運営に関する法律 (総合教育会議)
(総合教育会議)
第一条の四 地方公共団体の長は、大綱の策定に関する協議及び次に掲げる事項についての協議並びにこれらに関する次項各号に掲げる構成員の事務の調整を行うため、総合教育会議を設けるものとする。
一 教育を行うための諸条件の整備その他の地域の実情に応じた教育、学術及び文化の振興を図るため重点的に講ずべき施策
二 児童、生徒等の生命又は身体に現に被害が生じ、又はまさに被害が生ずるおそれがあると見込まれる場合等の緊急の場合に講ずべき措置
2 総合教育会議は、次に掲げる者をもつて構成する。
一 地方公共団体の長
二 教育委員会
3 総合教育会議は、地方公共団体の長が招集する。4 教育委員会は、その権限に属する事務に関して協議する必要があると思料するときは、地方公共団体の長に対し、協議すべき具体的事項を示して、総合教育会議の招集を求めることができる。
教科書の選定や教職員人事、その他総合教育会議で長と協議する必要のない細かな教育行政については、教育委員会が自らの権限と責任で執行することができますが、この第一条の四に挙げられている項目については長と協議・調整する必要があり、教育委員会の権限だけで執行できるわけではありません。
学校の設置や廃止はこの条文の一にある教育を行うための諸条件の整備に該当する施策になり、長との協議・調整が必要になります。つまり、教育委員会での決定事項が総合教育会議での長との協議・調整により修正されたり、場合によっては覆されたりするケースもあることになります。長は総合教育会議での協議の結果に基づいた施策を議案として議会に提出するわけですから、学校の設置や廃止は教育委員会の決定だけで議会に提出される議案になるわけではありません。
さらに、議会でその議案を審議してから採決することになりますが、当然ながら、採決するまでにはその議案を十分に精査して審議すると共に、審議の結果によっては議案の修正を求めたり、地域住民のためにならないと判断されれば否決することにもなります。議案が承認されれば予算が執行されることになりますが、議会でこの議案が承認されなければ執行されることもありません。
このように、教育委員会で決定された学校の統廃合などの事項が執行されるまでには長との協議・調整や議会での承認が必要であり、この過程においては長や議会も大きな責任がある役割を担っています。懲罰賛成派の議員は学校の統廃合の権限と責任が教育委員会にあると主張していますが(検証2-5)、そのような主張は、議会自らの責任を忘れて教育委員会に責任を押し付けるものでしかありません。このように、決して教育委員会の独立した権限と責任だけで学校の設置や廃止が決定され執行されるわけではないことは明らかであり、教育行政の範囲だけを考えても長には大きな役割と責任があります。 では、学校の設置や廃止の全体プロセスにおける最終責任はだれが持つことになるのでしょうか。上記で見てきたように、教育委員会、長、議会にそれぞれの役割における責任がありますから、教育委員会に全責任があるとすることはできません。そうすると、やはり山下議員の解釈2のように、この全体プロセスの責任者はその地方公共団体の長、すなわち市の場合は市長とするのが妥当だと考えられます。