12月13日に開催された懲罰特別委員会での審査開始の冒頭部分で、委員長の渡邉博夫議員(志政会)が「懲罰動議の提案理由の説明を求めるわけですが、既に本会議で聞いておりますので、省略したいと思います」[1]と述べています。

これに対して江本委員(未来の風)が、そのような提案理由の省略は「沼津市議会会議規則に反すること」[2]、また、「慎重な審議の必要性から通常の手順で審議すべきだ」[3]と異議を申し立てています。

それにも拘らず委員長は、江本議員の異議に対して他の委員の意見を聞くこともなく、すぐ直後にいきなり採決をし、結局賛成多数で提案理由の省略が決定されてしまっています[4]。ここでは、江本議員の訴えは何の検討もされずに無視され、また沼津市議会会議則をも無視する形で、既に本会議で聞いているからという乱暴な理由で提案理由の省略が決定されているのです。 本来この委員会は山下議員に対する懲罰を決定するための委員会ではなく、懲罰を課すことが妥当かどうかを審議するための委員会のはずです。一人の議員に懲罰を課すかどうかはその議員の名誉に関わる重大な事柄であり、それゆえに、江本議員が訴えるように慎重な審議が求められるはずです。慎重な審議をするためには、動議の提案理由・内容を確認し、それに対して質疑・討論をすることは民主主義の手順として不可欠のものです。だからこそ沼津市議会会議則にも手順として規定されているのであり、それを省くことは民主主義を無視することにもなります。

引用 [1] ~ [4]

○委員長

18番山下富美子議員に対する懲罰の動議を議題といたします。
まず、懲罰動議の提案理由の説明を求めるわけですが、既に本会議で聞いておりますので、省略したいと思います。[1] これに御異議ありませんか。

○江本委員

私は、ただいまの委員長のお計らいに対して反対を申し上げたい。その反対の理由を今から申し上げます。まず、沼津市議会会議規則の第96条には、委員会における事件の審査は、提出者の説明及び委員の質疑の後、修正案の説明及びこれに対する質疑、討論、表決の順によって行うのを例とすると。通常の委員会は、この順序で重要な議案についての審議が行われているわけですよ。この懲罰事案について、本会議でやっているから委員会での提出者の説明を省くということは、私は考えられません。[2] ほかの委員の皆さんがどのように考えられるのか、ぜひ御意見を聞きたいところですけれども、慎重に審議をする、そして、市民の皆さんに理解いただけるような、この懲罰委員会の運営を行う。先ほど長田委員も言っていましたが、この委員会の内容が傍聴の皆さん、そして市民の皆さんに間違って伝わることが、どんなことにつながるのかということを考えれば、通常の順序に従って、それぞれしっかりと審議するべきだと私の意見を申し上げた理由を今申し上げました。ぜひ委員長、その辺について御配慮を願いたいと思います。[3]
(拍手する者あり)

○委員長

御静粛にお願いいたします。再三、御静粛にと注意をしてございますが、これ以降、そのようなことのないように、ぜひともお願いをいたします。
それでは、御異議がありますので、起立により採決いたします。
懲罰動議の提案理由の説明を省略することに御賛成の方は御起立願います。
(賛成者起立)
起立者多数と認めます。
よって、提案理由の説明は省略することに決しました。[4]

(「この委員長の議事の進行に意見があります。ぜひ取り上げていただきたいと思います。」と言う者あり)
ただいま採決の結果、しないことになりました。既に結論が出ておりますので却下をいたします。

(令和3年12月13日懲罰特別委員会会議録)

検証4-2で確認しているように、動議提出時の質疑で梶議員は「具体的な内容ということにつきましては、設置された委員会の中で慎重に確認をして審議をしていただきたいと思っております」(検証4-2の[5])と述べて具体的根拠を明らかにはしていませんから、委員会ではこれらの具体的な内容を最初に確認しなければ審議は進められないはずです。それを省略するということは動議提案時の発言と整合が取れないばかりか、動議提案理由が明確にされないまま委員会が進められていることになります。検証4-1で触れた懲戒委員会の進め方に関するページでは、審議事項を明確にすることも懲戒委員会を進めるにあたって守るべき重要事項の1つに挙げられていますが、懲罰特別委員会では必要とされるこの手順を無視していることになります。

さらに、動議提案理由の説明を省いたことにより、それに対する質疑・討論も省略されてしまっています。

つまりこの懲罰特別委員会では、民主主義に求められる手順を省略したばかりでなく、懲罰の審議をする上で必要とされる懲罰理由の明確化もせずに会議が進められてしまっているのです。当然正当な審議は望むべくもありません。 その後山下議員の弁明があり、その中で、委員会が懲罰の根拠を示してくれるよう求め[5]、懲罰の不当性を訴えていますが[6]、その後の質疑(の機会)ではどの委員からも全く発言がなく、質疑が行われていません。山下議員に質問をすることで発言の真意を確認したりするための質疑は絶対に必要な手順のはずですが、なぜ委員からの質問は何もなかったのでしょうか。

引用 [5], [6]

○山下議員

[中略]
市民の代弁者として私の見解を述べた中でのことですが、本会議場の懲罰に値する私の言動が、議会の権威と品位を著しく汚したということでしたが、その理由について、根拠は明確に示されていませんでしたので、この言葉が懲罰に値するか、明らかな根拠をこの委員会においてお示ししていただくことを求めます。[5]
[中略]
議会が言論の府であるためには、言論の自由が保障されなければ、議員活動はできません。議員の基本である言論の自由が、このようなことで懲罰に及ぶことは、あってはならないと考えます。以上です。[6]

(令和3年12月13日懲罰特別委員会会議録)

その後も江本議員が進行手順に問題があることを訴えていますが[7]、渡邉委員長はここでも江本議員の訴えに何ら答えることもなく一言で無視してしまっています[8]。

引用 [7], [8]

○江本委員

ただいま、山下議員の弁明がありました。弁明の説明もありました。そして、それに対する質疑の時間も設けられました。残念ながらその質疑は、委員の皆様からなかったわけですけれども、山下議員の弁明があり、質疑が一応設けられたんですよ。であるとすれば、先ほど決定していますけれども、提案者の説明、そして、質疑がなければ、片一方の議論になってしまいませんか。これで慎重・正確な審議ができますでしょうか。本動議の提案者の提案説明が認められないということは先ほど決められましたが、提案者がいないということは、提案者に対する質疑も認められなくなってしまうことになると思うので、発言をさせていただきます。[7]

○委員長

はい、伺っておきます。[8]
(「伺っておきますだけで、ただいまの質疑が片づけられるんですか。いや、どうして私の発言、議事進行発言をそのままにしておくのか、そのまま意見の陳述に進むのか。その理由を明確にお答えください。議事録に残りますよ。おかしいですよ」と言う者あり)
(何事か言う者あり)
御静粛にお願いいたします。 今の進行の中で、全てその内容についてはお話を申し上げました。委員の皆さんの御賛同の中で、提案説明は省略するとの結論でございますので、御理解いただきたいと思います。

(令和3年12月13日懲罰特別委員会会議録)

江本議員はその後も繰り返し進行手順の問題点を訴えていますが、その途中では、その訴えを否定する川口委員(日本共産党沼津市議団)による以下のような発言もあります。

この川口委員の発言にはいくつか誤りや問題点が含まれています。

まず、懲罰特別委員会が本会議での賛成多数で正当性を持っていると発言していますが[9]、賛成多数で開かれているからそれで正当性があるということにはなりません。委員会が正当性を持つためには、検証4-1で挙げた重要事項を守る必要がありますが、そこで検証したように中立性・公平性がない構成になっており、それだけで正当性は破綻しています。 また、[10]および[11]の部分は、いみじくもこの懲罰特別委員会の本質を反映しています。川口委員は、山下議員の発言には問題点があると断定しそれを正していくのがこの委員会の目的である(ということは委員長の発言から読み取れる)としていますが、明らかに誤った認識です。懲罰特別委員会の目的は、山下議員の発言に問題があるかどうか、懲罰が妥当かどうかを審議するための場であって、問題があるからそれを正すという場ではありません。また、そのような目的が委員長の発言から読み取れるのなら、その発言自体が誤りであり委員長の発言としては大いに問題です。

引用 [9] ~ [11]

○川口委員

私の認識を発言させていただきたいというように思います。まず、今日の懲罰特別委員会設置は、本会議における議長の命令によって、私たちは本会議での賛成多数によって開かれているところであります。そういう意味で、この懲罰委員会の開催は正当性を持っているというように考えます。[9] それに加えて、本会議での山下富美子議員の一般質問に係るその発言の中に疑義、問題点がある、認識の違いがあると。このことを明確にした中での設置であります。だから、私たち、この委員会の性格として、それをしっかりとただしていくというのが目的であるということは、委員長の発言の中からも読み取れることであります。[10]
[中略]
問題となるのは、くどいようですが、重ねますが、山下富美子議員の一般質問の発言の問題点、これは江本委員も承知の上でこの委員会に参加していると思います。[11] その上で、弁明の機会も持っていただき、本人の傍聴も許可して、今後、委員の論戦が始まるというように私は受け止めているわけであります。それぞれが自分の認識に基づいて、発言、意見を述べることによって、今度の問題が一つ一つ明らかになるのではないでしょうか。そういう意味で、ぜひ、今のこの状況の中で、委員長の下で会議を進めていただきたいというように考えます。以上です。

(令和3年12月13日懲罰特別委員会会議録)

その後の休憩後に渡邉委員長の以下の発言がありますが、ここにも大きな問題が含まれています。まず、上記で検証したように、「既に本会議で提案説明とそれに対する質疑を行っており」[12]としていますが、本会議での提案説明およびその後の質疑では懲罰理由の具体的内容の一部しか明確にはされずに懲罰特別委員会で確認するとされており、提案説明もそれに対する質疑も全く不十分なままで終わっています。委員長のこの発言は、提案説明と質疑を省くことで懲罰理由を明確することを避けるという意図さえ感じさせます。あるいは、委員長本人も懲罰動議の提案者の一人ですから、その手順は無駄で必要ないとでも思っていたのでしょうか。 さらに、この委員会において提案理由の説明および質疑を行わない理由として、過去3回の懲罰特別委員会での同じ運営方法が先例としてあること挙げていますが[13]、先例があるということが提案理由の説明や質疑を省く正当な理由になるとは思えません(たった3回で倣うべき先例としてよいのかという疑問もありますが)。審議事項を明確にすることは満たすべき重要事項であり、なぜなら、そこから民主主義の手順である議論(質疑)つまり懲罰委員会の審議が進められていくからです。江本議員も指摘しているように[14]、提案理由の説明と質疑を省いたこの3回の先例は、むしろ過去においても懲罰を審議する上で守られるべき手順が守られていなかった、つまりこれらの懲罰特別委員会も民主主義の手続きを無視した不当なものであった可能性が高いことを示しています。

引用 [12] ~ [14]

○委員長

本件につきましては、既に本会議で提案説明とそれに対する質疑を行っており[12]、先ほど委員会において提案説明を省略する旨をお諮りいたしました。委員会において提案説明を行わないということは、それに対する質疑もないものと解されます。また、当市議会の先例といたしまして、過去10年を調べたところ、平成23年に2件、平成29年に1件に対する懲罰特別委員会がありましたが、いずれもそのような運営をしております。委員長としては、これら当市議会の先例などから、これも含め、そのようにお諮りしたつもりです。[13] 委員の皆様にはそこについても御理解をいただいた上、先ほど採決させていただいたと考えております。委員の皆様は、その認識でよろしいでしょうか。改めて確認いたします。
[中略]

○江本委員

私は、その提案いいと思うんだけれども、だったらもっと大事なこと、また戻っちゃうけれども、提案者の説明という本来やらなければならないことを省いているのにもかかわらず、本来、この地方自治法にも出ていない、会議規則にも出ていない異例の措置をやるということの皆さんの考え方が、私、理解できないですよ。何で、本来やることをやって、その上でやるんだったら、参考人としてやるんだったら、そりゃいいでしょう。だけれど、本来やらなければならない、さっきもこれ読み上げたけれども普通はやっているんですよ、日本全国。でも沼津において過去10年間、3回、いずれも懲罰動議の審査においては、こういう異例なことをやっていた。[20]
[後略]

(令和3年12月13日懲罰特別委員会会議録)

江本議員はその後にも進行手順の問題を訴えていますが、委員長に遮られてしまいます。

続いて、学校設置・廃止の責任者についての関連法令の解釈を文科省に確認しに出向いた植松議員(虹の会)と事務局副参事が参考人として報告・説明をしています。

これは、山下議員の法令解釈が正しいか間違っているかを確認するためのものですが、植松議員、事務局副参事共に文科省で受けた説明を述べているだけで、山下議員の解釈が正しいかどうかの判断を避けています。この説明だけでは山下議員の解釈が正しいかどうかは判断できないわけですから、当然の手順として、どう判断するかを委員の間で審議して結論を出さなければいけないはずです。しかし、そのような審議は全く行われず、各議員の意見陳述に進んでしまっています。

(関連法令の解釈および各委員の発言内容については、それぞれ「検証2-2b 関連法令および地方教育行政の構造」と「検証2-5 懲罰特別委員会での各委員の山下議員の法解釈に対する意見の検証」のページで検証しています)

ここでも江本議員が、委員会の進行手続きの問題点や懲罰理由の問題点、先に発言した委員の意見に対する問題点などを訴えていますが、それに対する反論や意見は何もありません。結局、副委員長を含む他の8名の委員が懲罰賛成意見を述べ終わった直後に採決が行われ、当然ながら江本議員以外の委員の賛成多数によって懲罰が決定されてしまっています。賛成意見と反対意見との間で議論をして初めて審議になるのであって、参加者が意見を述べるだけの会議進行は審議ではありません。

以上のように、この懲罰特別委員会では、動議提案理由の説明およびそれに対する質疑・討論、山下議員の弁明に対する質疑、文科省の説明をどう解釈するかの審議、懲罰が妥当であるかどうかの審議がすべて省略されており、懲罰委員会に必要とされる実質的審議が全く行われていません。その結果、民主主義を無視した形で単に多数決によって山下議員の懲罰が決定されてしまっているのです。 さらに、動議提案理由が明確にされていないことに加えて法令解釈の結論も出されていないにもかかわらず、各委員の意見の中では、懲罰の根拠や法令解釈が断定的に細かく説明されています。各委員の意見の陳述は文科省での聞き取りの説明のすぐ直後に行われており、各委員の意見はここでの説明を受けての意見ではなく、委員会の前にあらかじめ文科省の説明を確認してあったか、あるいは文科省の説明に関係なく自分の意見をまとめてあった(懲罰に賛成したすべての委員がそうしていたかどうかは分かりませんが)と思われます。この一連のことは、法令解釈を含む懲罰の根拠および結論についてはあらかじめシナリオが決められており、この懲罰特別委員会は、検証4-1で示したような構成面からだけでなくその内容においても、懲罰を決定するために表面的な体裁だけを整えた不当なものだということが分かります。シナリオ通りに進めるためには余計な審議・議論をする必要はなかったのでしょうし、審議をすることで意図した結論を得ることが難しくなることを恐れたのかもしれません。