2021年12月10日の本会議定例会において、山下議員に対する懲罰動議が22名の議員の連名により提出されていますが、沼津市議会の議員数は28名であり、動議に署名していないのは、山下議員、同じ未来の風に所属する江本議員、浅原議長(志政会)、議会運営委員会の高橋委員長(志政会)と植松副委員長(虹の会)、および深田議員(市民クラブ)だけです。つまり、市議会のほとんどの議員が懲罰動議に名を連ねていることになります。

この懲罰動議の署名者には副議長である長田議員(公明党: 副議長)が含まれていますが、本来議長と同じように議会運営上の公平性が求められる副議長が懲罰動議に参加することは、果たして副議長として 公平性を保った行動と言えるでしょうか。

懲罰動議が議長に提出されたことにより、12月10日の本会議に先立って12月9日に議会運営委員会が開催され、懲罰特別委員会の設置が討議されています。この議会運営委員会では、上記のように委員長と副委員長を除き他の委員5名はすべて懲罰動議に署名しています。 この委員会では、以下に示すように懲罰特別委員会を設置することとその構成員10名をどう決めるかということだけが討議されており、懲罰特別委員会の中立性・公平性は一顧だにされていません。

引用

○委員長

 [中略]
 次に、本特別委員会のメンバーについてですが、動議が提出された時点で、委員会条例第7条第1項の規定により懲罰特別委員会は設置されておりますので、懲罰特別委員会のメンバーを決めることになります。懲罰特別委員会の定数は、委員会条例第7条第2項の規定により議員定数の3分の1となっており、本市議会においては10人です。過去の先例を見ますと、各会派から1名、無所属の方が1名おりますので1名、これで8名となります。残りの2名は、会派人数の多い志政会、自民沼津から1名ずつ選任となりますが、これでよろしいでしょうか。

(「異議なし」と言う者あり)

 それでは、さようさせていただきます。

(令和3年12月9日議会運営委員会議事録)

企業や大学など民間の場合ですが、以下のページでは懲戒委員会(懲罰委員会)の望ましい進め方について弁護士が説明しています。

懲戒委員会(賞罰委員会、懲罰委員会)とは?進め方や議事録について解説

ここでは、以下のような項目が守るべき重要事項として説明されています。

  1. 懲戒委員会規定等を確認する
  2. 懲戒委員会の構成(メンバー)を間違わない(中立性・公正性)
  3. 弁明の機会の付与
  4. 審議事項を明確にする

    ・対象となる行為の特定
    ・就業規則のどの懲戒事由に該当するかの検討
    ・どの懲戒処分をすべきなのかの検討
    ・議事録の作成

また、構成員の不当性により懲戒処分が無効とされた判例や懲戒委員会での不適切な審議により懲戒解雇処分が無効とされた判例も紹介されています。

ここで説明されているように、民間の個人を対象とした場合でも懲戒(懲罰)委員会の正当性は当然求められるのですから、市民によって選ばれた議員に対する懲罰委員会の場合はさらに高い正当性が必要とされるはずです。正当性が保たれないような懲罰委員会によって議員が懲罰を受けることがあれば、その議員だけでなく、その議員に投票した市民の声をも抑圧することになります。

山下議員に対する懲罰特別委員会では、以下で検証するように、まず上記の重要事項のうちの「懲戒委員会の構成(メンバー)を間違わない」という項目が全く守られていません。さらに、検証4-2で検証するように、「就業規則のどの懲戒事由に該当するかの検討」(この就業規則は、市会議員の場合は議員必携や沼津市議会会議規則にあたる)もなされていません。

12月9日の議会運営委員会では、山下議員に対する懲罰動議の写しが上記に引用した委員長の発言の前に配布されており、この議会運営委員会のすべての参加者は動議提出者が誰であるかを認識しているはずです。従って、議長、委員長および副委員長も含めてこの議会運営委員会の全員が、上記引用に示されているような構成員の選出をすると、あるいはどのような形で選出をしたとしても、動議提出者が懲罰特別委員会の大多数を占めることになり中立性・公平性が保たれることは決してないことは分かっていたはずです。

懲罰特別委員会設置のための手続きには従っていますが、それだけで中立性・公平性が約束されるわけでありません。中立性・公正性を保つためにはその構成員の選択方法についても慎重な検討がなされなければいけないはずです。しかし、上記の委員長の発言にあるように、先例に従って構成員を機械的に割り振っているだけで中立性・公平性を考慮しての選出ではありません。また、具体的な人選は各会派に任されていますが、当然の結果として、懲罰特別委員会の構成員は、江本議員を除く他の9名のすべての構成員が動議に署名した議員となっています。 この問題点は沼津朝日でも以下のように指摘されています。

刑事司法における検察官と裁判官を同じ人間が務めるということ。[中略] 100%の有罪が可能だという構図になっている。

(「山下議員への懲罰を考える 上」、沼津朝日2021年12月21日)

以上のことから、山下議員に対する懲罰特別委員会は、設置が決められた時点で中立性・公平性を欠く委員会であり、懲罰の妥当性を審議するための委員会ではなく単に懲罰を決定するための委員会でしかありません。このような懲罰特別委員会にはまったく正当性がなく、最初から不当なものであるとしか言えません。 さらに、議会の公正な運営を監督すべき浅原議長が、このような不当な懲罰特別委員会の設置を中立性・公正性に関して何の考慮もせずに認めてしまったことは、議長としての職責を果たしているとはとても言えません。