12月10日の本会議において梶議員(提案者の一人、市民クラブ)から懲罰動議が出されていますが、その動議理由は議事録ではほんの数行の簡単なものです。「山下富美子議員の発言の一部が、本議会の権威と品位を著しく汚した」というのが理由ですが、その根拠を「正当な答弁を行った当局の信用を大きく失墜させる無礼な言葉を用いたこと」[1]と「自身の法解釈で断定的な発言をしたこと」[2]の2点としています。(実際の懲罰動議書では、さらに簡単な理由しか書かれていません)

引用 [1], [2]

○23番議員(梶 泰久)

 12月7日の一般質問におきまして、18番 山下富美子議員の発言の一部が、議会の権威と品位を著しく汚したと判断したため、会議規則第161条第1項の規定に基づき、本動議を提出いたします。

 本件は、本市重要課題である市内公立学校の学校規模・学校配置の適正化について、正当な答弁を行った当局の信用を大きく失墜させる無礼な言葉を用い[1]、かつ、自身の法の解釈で断定的な発言をしたこと[2]などは、本議会の権威と品位を著しく汚すものであります。

 以上の経緯及び理由から、18番 山下富美子議員に対する懲罰を求める動議を提案いたします。

(令和3年12月10日第11回定例会会議録)

それに対する質疑の中で江本議員(未来の風)が、1) 山下議員のどの発言が議会の権威と品位を著しく汚したと判断したのか」、2) 議員必携に挙げられている7つの具体的な懲罰の事由となるもののうち、今回のケースがどれに当たるのか、3) 発言のどこの部分が当局の信用を大きく失墜させる無礼な言葉であると捉えたのか、4) 発言のどこを指して法の解釈を断定的に発言したというのか、さらに、この法の解釈を断定的に発言することが、どうして権威・品位を失墜させることに当たるのか、5) 山下議員の質問に関連する、学校教育法および地方教育行政の組織及び運営に関する法律(地教行法)さらには、文部科学省が発行した学校の適正規模・適正配置等に関する手引の3点の解釈が誤っていたことを意味していると思われるが、それをつかさどる文部科学省の助言、また、全国市議会議長会等に今回の事案が懲罰に値するかどうか等の助言等はもらったのかどうか、また、他の地域で同様の事例により懲罰が科せられたというような事例はあるのかどうか、それについて確認をしたのかどうか、と大きく分けて5点の質問をしています。

これに対して梶議員は、1) 「教育長、それは大きな間違いですよ」と発言された部分、2) 議員必携に例示されているものに一致している必要はなく沼津市議会は会議規則で動いているから、3) 「教育長、と発言された部分、4) 「教育長、それは大きな間違いですよ」と発言された部分、5) 確認はしていない、と答えています。

梶議員は、1)と3)の質問に対しては答えていますが、2)については議員必携の例示に一致している必要はなく、市議会規則で動いているからという曖昧な答え、4)については質問の前半部分のみ、5)については確認していないということだけを答えています。 江本議員はこれに対する再質問(下記)で、「山下議員の発言が、沼津市議会会議規則のどこの部分に抵触し、懲罰に値するのか、またどの法令の解釈が断定的なのか」[3]、[4]と尋ねていますが、梶議員は「具体的な内容ということにつきましては、設置された委員会の中で慎重に確認をして審議をしていただきたいと思っております」[5]と発言しているだけであり、これは質問の答えにはなっていません。動議提案理由の具体的内容は委員会で確認してほしいというわけですが、懲罰特別委員会での懲罰理由の確認作業は、審議の前に動議理由に記載されているはずの懲罰の理由を確認し明確にするための作業であって、委員会が懲罰の具体的理由を決めるわけではありません。

引用 [3] ~ [6]

○17番議員(江本浩二)

議員必携の具体的な事項に該当するものはないと。よって立つのは、沼津市議会会議規則であるとおっしゃられました。沼津市議会会議規則のどこの部分に抵触し、懲罰に値するとお考えになられたのか、お聞きします。[3]
 それからもう1点です。
 4つ目の質問なんですが、断定的であるということをおっしゃられて、それが不適切であるということ、そういう意味として捉えられるわけですけれども、どの法の解釈が断定的であり、不適切であるとしているのか、具体的に法令の名称をお伝え願えますでしょうか。[4]

○23番議員(梶 泰久)

 江本議員の質問にお答えします。
 まず、2点ございまして、1点目は、会議規則のどこなのかということ、それから2点目につきましても、どの法が断定的な、どの法令があるのかということでございました。この2点につきましてそれぞれお答えしたいんですけれども、一括してお答えさせていただきます。
 これは具体的な内容ということにつきましては、設置された委員会の中で慎重に確認をして審議をしていただきたいと思っております。[5]
(何事か言う者あり)

○議長(浅原和美)

 議長といたしましては、今の質疑を聞いておりまして、総体的に答えられていると理解しておりますので、質疑を続けていただきたいと思います。[6]

(令和3年12月10日第11回定例会会議録)

この後江本議員が再度質問をしていますが、梶議員の答えは[5]と同じ内容です。この質疑の中では動議の具体的な根拠は示されておらず、それが明確になっていないにも関わらず懲罰動議を提出したということになります。梶議員(および他の署名者)は、動議の具体的根拠がはっきりしないまま動議を提出したのでしょうか。結局この動議は、「山下議員の『教育長、それは大きな間違いですよ』という発言が、正当な答弁を行った当局の信用を大きく失墜させる無礼な言葉であり、かつ自身の法の解釈による断定的な発言であるために、本議会の権威と品位を著しく汚した」という、根拠のない単なる決めつけ・こじつけとしか考えられない理由での動議であるとしか解釈できません。一部の具体的な根拠(説得力のある根拠ではありませんでしたが)は懲罰特別委員会での各委員の意見の中で開示されていますが、これは具体的な根拠は後付けになっていることを示しています。このような根拠が曖昧な懲罰動議を出すことは本来戒められるべきです。沼津市議会では、このような根拠が曖昧な懲罰動議をこれまでも認めてきたのでしょうか。

さらに、浅原議長は、「総体的に答えられていると理解しております」[6]として質疑を進めていますが、梶議員は江本議員の質問の一部にしか答えておらず、とても総体的に答えられていると言えるような回答ではありません。浅原議長は、なぜ梶議員に質問にきちんと答えるように注意もせずに進めてしまったのでしょうか。また浅原議長は、梶議員の答えが不十分なために江本議員が繰り返して質問したことで、「質疑は3回まで」という理由で質疑を打ち切ってしまっています。市議会規則に従ったのかもしれませんが、質疑を不十分なまま終わらせてしまうことは健全な議論をする上では避けるべきであり、規則に形式的に従って打ち切るべきではありません。浅原議長はむしろ江本議員の質問に対して明確な回答をしない梶議員を注意すべきであって、議長の職責を果たしているとは言えません。